「来い!!」
「で、でも…」
男は汗を飛び散らせながら私を手招いている。血走った目が、有無を言わせぬ気迫を生み出している。私は走った。足がもつれたが、倒れることなく走った。急激に血中尿酸値が上昇し、心拍数が上がっていく。しかし呼吸は止まっていた。
「急げ!」
歯の隙間から自由を求めた空気が漏れると同時に、私は彼を横目に見た。間に合った。
「よし!」
「あ、あなたはっ!?」
「ふっ、俺のことはいい。さっさといけ」
「そ、そんなっ」
二人の間にある、か細くて見えない糸を人の波が断絶する。どうしてこんなことになるのだろう。
「待て……妻と娘に……愛していると……」
それだけ言うと男の顔が人垣に埋もれて見えなくなった。
「ドアが閉まりまぁす」
「え、駅員さぁん!」
鉄の匣は無慈悲に走り出す。
という妄想で胸を熱くしている。
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